とつとつとしてろうとせず

ひまつぶしにどうぞ。

困惑

自分がやることを思いつきもしないようなことを他人が平気でやっているのを見たとき、声を荒げて怒ったり、何も言えずに泣いてしまったり、他人事のようにニヤついてみたりする前に、刹那であっても人は驚いているように思う。常であればすぐさま怒りや悲し…

燠火のごとく消えぬもの

輝く呼び声が薄れ遠のき、禊(みそぎ)のみなもとの水涸(みずが)れた今となっても、人の心を戒め、揺動惑乱を生ぜしめる畏れは未だに心臓を走っている。蓋(けだ)しそれはすでに朽ち落ちた古の似姿を象(かたど)り、朧な影となった威力を鮮やかに縁(ふ…

詠みやすい文章

噺家の語りなんぞを聞いていると、惚れ惚れするほど歯切れよくことばを繋いでいく様に毎度感心してしまう。湯水のごとくことばを吐き出すなんてのは、少しばかり口が達者でありさえすれば素人様にだってできる真似だが、聞く者が思わず溜め息を吐いてしまう…

LaTeXiTがおかしいときは

自分用の備忘録。 LaTeXiTを使っていて、タイプセットはできるのに出力画像が真っ白で何も表示がないという状況になったので、今の今までずっと放置していた。今日になってまた使いたくなったので原因を調べてみたところ、アップデートによってコマンド設定…

人を殺さば鬼となり、鬼を殺さば鬼となる

徒然草にこういう一節があるそうだ。 人の心すなほならねば、偽りなきにしもあらず。されども、おのづから、正直の人、などかなからん。己れすなほならねど、人の賢を見て羨(うらや)むは、尋常なり。至りて愚かなる人は、たまたま賢なる人を見て、これを憎…

自然化されえない領域

いかなる哲学も自然化されるべきである、とまではさすがの自然主義賛同者たる俺でもいえない。少なくとも独我論、すなわち純粋な実在論の領域は、いつまでも自然化されえない領域として残るであろう。なぜならそこは科学が成立する前の「手付かずの世界」で…

政に似て非なるもの

いきなり肩を叩かれて、振り返ると知らない人が立っている。彼はなぜだかにこやかに、片手を上げて挨拶をする。「スマーハ! アリンジャ・ニメロン?」――そんなことばは聞いたこともない。そもそも顔も見たことのない人間に聞き慣れない言葉を投げかけられる…

涸れた心根

濡れそぼったような情緒、あるいは永遠不変なる人類の普遍的価値観とやらを、全く意に介さない乾いた精神が存在すると俺は信じる。育ちのよいお嬢様、すなわち件の思想にどっぷりと浸されて育まれた魂が、涙ながらに声を嗄らし、鼻水垂らしてその翻意を説得…

恐怖! 謎の微分方程式!?

先日、こんな出来事があったそうだ。 breaking-news.jp ニュースの内容も気にならないではないが、個人的には件の教授が書いていたという方程式の内容の方が気になった(一時間近くこれについて調べてしまった程度には)。とくダネ!で紹介されたところによ…

髪の長いの短いの

髪の長いと毛先が曲がる、はねる、逆立つ、くるくる回る。目ん玉擦るしすだれも邪魔で、洗うも拭くも一苦労。手櫛じゃどうにもまとまりつかず、壁や隙間に挟まり抜けて、悲しい痛みが乗っかかる。 短い髪なら手入れもいらず、洗う手間なぞないも同然、濡れて…

訪うもの

その声は、次第次第に大きくなり、厚みを増しては家の周りにとぐろを巻く。最初は薄靄のようだったのが、段々段々と形を得て、なんとはなしに姿の見えるようになる。細かったそれは太くなり、軽かったそれは重くなり、触れもしなかった遠くの陽炎から、じり…

次数の異なる2つの変形Bessel関数の比の近似

はじめに 変形Bessel関数はBessel関数と同様、円柱座標系や平面極座標系における偏微分方程式を変数分離法によって解いたときの半径方向の分布を表す関数として知られている。たとえば、平面極座標系$(r,\theta)$における変形Helmholtz方程式 \[ \paren{\nab…

銅(あかがね)の翼は射殺された。輝く無数の石火矢が狙い違わず撃ち抜いたのだ。鏑(かぶら)を吹き鳴らし、螺旋を描いて墜落する巨体を、連なる峰々はこぞって串刺しにした。清らかな鮮血が天地(あめつち)の間を立ち渡り、健やかな断末魔がわだかまる安…

ゆるし

「人の生には意味がある」「生まれてきたのには理由がある」と主張する人々は、逆説的に「意味のない生には価値がない」「理由もなく生まれてくるべきではない」ということも同時に主張している。彼らはなぜか「ゆるし」がなければ生命は存在してはいけない…

孤児

お父さんがいないなんてかわいそうね、と親戚のおばさんがつらそうにいった。お母さんがいなくてさみしいだろうに、と近所のおじさんは悲しげだった。気をしっかり持つんだ、と学校の先生は励ましてくれた。みっちゃんとりょうくんは何もいわずに、大事にし…

空白

私を縛り付けるものは脆く崩れる灰の縄、私を鞭打つものは虫に喰われた朽木の欠片。私の両目を覆う薄布には穴が空き、私に宛われた耳当てはひどく風通しがよい。私を怒鳴りつける男は死にかけの老人で、私を見張るはずの男は高鼾をかいて眠りこけている。私…

なまぐさい

坊主が罪を許せずして誰が罪を許すのか。まして出家の身でありながら周囲の反対を押し切ってまで縁を結んだ己が細君を許せぬというなら、もはや坊主とも呼べぬただの狭量であろう(清濁併せ呑む一休和尚ならそんなことはいわなかったろうに)。最も世襲が許…

さんすうってむずかしい

今の小学校では「足し算」を「合併(合わせていくつ)」と「増加(増えるといくつ)」に分けて教えるそうだ。もしも「小学校で教えているのは『さんすう』であって『数学』ではない」と主張するのなら、「足し算」の記号に「数学」と同じ「+」を使うのはや…

哲学的、文学的、衒学的!

優れて哲学的な物語が優れて文学的であるとは限らないし、逆もまたそうである。しかし、優れて哲学的な物語は表面上明晰判明であろうし、優れて文学的な物語もまたそうであろう。「哲学的」とは表現や文章が難解で晦渋であることを意味しないし、「文学的」…

液膜のRayliegh-Taylor不安定性に対する線形安定性解析

注意 以下の記述は私的な備忘録であり、内容の正確さに関しては一切保証いたしませんので、悪しからず。 問題設定 図のように壁面に塗布された薄い液膜の2次元流動を考える(たとえば、風呂場の天井に付着した水の膜など)。壁面表面から鉛直下向きに$z$軸を…

米語と英語の発音

アメリカ英語とイギリス英語の発音が違うというのは何となくわかっていたが、具体的にその違いを音声学的に説明してくれているサイトがあって大変勉強になった。 アメリカ英語とイギリス英語の発音の違い よく言われる「日本人にはイギリス英語の方が発音し…

害益の有無よりも

「宗教は有害で暴力的でろくでもないからなくしてしまおうぜ」という主張と、「いやいや宗教にも価値があるし色んなところで役に立つから残しておいた方がいいよ」という反論は、「宗教は有益か否か」という同じ問いに対する異なる立場の是非だ。しかし、こ…

意味の流れ

自然現象は認識者にとっての記号である。ある事象(たとえば「雨が降る」)は認識者に対して様々な意味をもたらし、認識者を通して新たな事象、すなわち別の記号を生産する(たとえば「傘をさす」「軒下に駆け込む」)。記号言語という設定はこの関係を部分…

物理的に埋め込まれた言語

言語学的概念が物理的な環境の中に埋め込まれている、という発想は確かに面白い。温度の実体が分子の熱運動であるように、言語学的概念を直接的に物理学的概念に還元することまではさすがにできないだろうが、類似の発想でもって言語学的現象を解釈すること…

つまらないものたちの台頭

何かをおもしろい、あるいはつまらないと感じるときの基準は千差万別、人それぞれであるとよくいわれる。確かに人の好みは本当に多種多様で、ある人にとって好きで好きでたまらないものが、別の人にとっては全く興味の持てないつまらないものにしか思えない…

首振りすぎて顔が痛い

右を見ても狂騒、左を見ても騒擾……大声を出した方が勝ち、上手い嘘をつける奴が有利、嘲り笑うための語彙力が豊富であればなおよし。自分に都合がいい情報は積極的に公開し、弱点となる事実はひた隠す。頷けば善人、背けば悪人、そんな態度は程度の低いフィ…

機嫌の悪い日は生理、という物言いの根本

肋を開かれて正気でいられる人間もそうそういない。己が太っ腹をかっさばけばピンクのはらわたがのたくっていることに気づくことの方が少ない。糞袋の畜生でしかないヒトは、普段は自分を「人間」だと思い込んでいる。しかし、人間でいられる時間、人間であ…

乾いた恭順

道徳に従うべきであることの根拠とされる事由がことごとく無化されてしまったのだとしても、われわれは道徳に従うしかないという理由だけで道徳に従うしかないのではないか。道徳を守るべき積極的な理由のすべてが骨抜きにされてしまっても、頼りない消極的…

秘匿によって

汗ばむ掌後ろ手に、泳ぐ視線はうつむいて、声の震えを押し隠せ。われらは妙なる秘匿によって涙の川に参列する。無病を装い、無謀に扮し、無垢なる無常と見せかけよ。誰も彼もを欺いて、あらゆる嘘を押し通せ。われらの秘匿は綱渡り、命の綱での曲芸である。…

木を隠すなら森の中、人隠すなら灰の中

見るも哀れな痛みの代わりに、あなたは秘め事を胸に潜めるべきだ。つまりそれは完全なる避難の計画、祝福と喝采の褥に安らぎうる数少ない方途の一つ。入念に準備され、周到に用意された思考と想像を、あなたは集め、積み上げなければならない。しばしば染み…