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とつとつとしてろうとせず

ひまつぶしにどうぞ。

共有されてはならない感覚

蟻が蟻のように勤勉に労働に勤しむことができるためには、蟻は己が蟻であることを忘れているのでなければならない。機械が一個のシステムとして完成するためには、歯車が所定の位置にぴたりとおさまり、効率的に動力を伝達するのでなければならない。キリギリスに憧れた蟻は巣から追放され、歯の摩耗した歯車はいずれ交換される運命にある。彼らをして不出来な蟻、不出来な歯車と罵ることは、しかし実際のところやや的外れだ。彼らは蟻であることを、歯車であることをやめてしまったので、蟻であることにとっての良さも歯車にとっての良さも彼らには何の意味もなさないのだ。とはいえ、そんな理屈は理屈として認知されない。蟻はキリギリスにはなれず、歯車は交換を免れえない。彼らは全体から矯正され、さもなくば追放され、でなければ抹殺される。蟻はただ、たまさかに回ってくる休憩の時間に、歯車はただ、定期メンテナンスで機械が停止しているときに、似た者同士の存在に想いを馳せ、共有されない一つの感覚を噛みしめる。それが余暇にしか楽しむことのできないものであるのは、それが決して全体の正当な思想として共感されないからだ。蟻の全体が蟻であることを、歯車の全体が歯車であることをやめてしまえば、それはもはや別の全体になってしまうからである。だからそれは共有されない、共有されてはならない。