とつとつとしてろうとせず

ひまつぶしにどうぞ。

病を得て報いる

素晴らしきもの、得も言われぬものは心のどこかに余裕やゆとりが一欠片でもある内は浮かんでこない。それらが削ぎ落とされ、奪い去られ、痩せ細った眼窩に埋まる濁った瞳がぎらつくような時分になってはじめてぽろりと落ちてくる。絶叫と怨嗟が和音を作り、壁に打ち付けた拳の砕ける音が妙なる調べとなる。激痛に胸を掻き毟り、のた打ち回って暴れた痕跡が無類の名画を描く。安らかに、健やかに、朗らかに、伸びやかに創られたものに、癒やしはあっても感動はない。殺意と妄執と呪詛と慟哭が混ぜ合わさればこそ心に突き刺さる何かが生まれ出づる。当然終には病臥の果てに独死するであろうが、それは凡百の生には決して与えられぬ褒誉賞賛と引き換えなのだ。