とつとつとしてろうとせず

ひまつぶしにどうぞ。

感じ入ってはよろしゅうない

おそらく少女が苦痛を吐露している。多分少年が喜楽を語っている。妻と思しき人が夫への愛を噛み締めている。父親だろう人物が子どもの可愛さにやられている。情報やニュースをまとめたブログは大層便利で、読み物として楽しく、ためになることが多い。それはそれで大変価値のある文章であろう。それでも、ときたま人の体温が感じられる、素朴なただの日記が読みたくなる。日本人らしいといえばそうだし、ご時世というのもあるのだろうか、そこには日々の暢気な報告やアホらしい幸せの自慢話だけにとどまらず、職場や学校での愚痴や苦労話も少なくない。愚痴で済んでいるものもあれば、ほとんど呪詛のようなものさえある。そういうものが目に入ると、なんだか不可思議な心持ちになる。肺の真ん中の食道辺りがもやもやして、痛いような、苦しいような、あるいは痒いような、なんとも言い表しがたい妙ちきりんな感覚が逆流する。俺は根が暗いもんだから、どうやらそういう話によく感じ入るようだ。高貴な趣味といえたもんではないな。全く関係のない赤の他人の打ち明け話を眺めるだけ眺めて、特に応答もなく勝手に妄想を抱いているのだから。胸の晴れる類の行いじゃないが、ご寛恕願いたい。俺のような弱い人間は、自分に似た境遇の他人が横並びになって、似たような程度で苦しんだり楽しんだりしているのを見ると、なんだかほっとするのである。ああ、少なくとも電子の海のあの辺りには、俺みたいな人たちがなんとかよろしくやっているのだなと思う。それだけで、案外寝心地よく床につけたりするのである。何をするでもないし、何を言うでもないが、顔も知らないご同輩連中におかれましては、今日も今日とて安らかに眠りにつかれますよう、浅はかながらお祈り申し上げますわ。