とつとつとしてろうとせず

ひまつぶしにどうぞ。

凍える夜に巨大な銀河が垂れ下がっていた。空から滲み出した冷気が風に撒かれ、森の中を歩く子どもを打ち据える。木々のざわめきが辺りに木霊して、角笛のような唸り声が後ろの暗がりへと通り過ぎていった。子どもは、ぶるりと震えて自分を抱いた。ガチガチと鳴る歯を食いしばり、疲れた足に鞭打って、開けた場所へと駆けていく。
ふいに森は途切れ、風に波打つ草原に出た。遮るもののない寒さが子どもに押し寄せた。ぴりぴりとした肌の痛みに思わず目を閉じる。そんなとき、風に混じって人の声が聞こえてきた。鼓を打ち笛を吹く音もある。どこか近くに人がいる。子どもははっとして、そちらに走った。
いくらもいかない内に、組み木を燃やす炎の周りを人々が踊っているのを子どもは見つけた。男がいた。女がいた。年寄りもいた。だが、子どものような子どもはいなかった。
子どもの、人々を見たときの無意識に緩んだ表情は一瞬の内に消えた。氷ってしまったその青白い顔が炎の輝きを照り返した。
「あいつらは蛾だ」
子どもは呟いて、意味もなく左腕を掻いた。
「ああいうのは蛾のすることだ」
子どもは炎を見据えたまま、ゆっくりと地べたに腰を下ろした。膝を抱いて、その間に頬を埋めた。
「光と熱に引き寄せられて喜ぶのは蛾ぐらいなもんだ」
子どもは揺らめく人々の影を目で追った。
「あいつらは蛾だ」
子どもは呟いた。誰かに言い聞かせるように呟いた。
「あいつらは蛾なんだ」
後はもう何も言わないで、子どもは原っぱに座り込み、炎を廻る人々の笑顔をぼんやり眺め続けた。楽しげな声と喜びに満ちた音楽は子どものいるところにも届いていたが、光も熱も十分には行き渡らなかった。子どもはいつしか、薄闇と希薄な温もりの中で眠りに落ちた。巨大な銀河の重みに押しつぶされたような、うなだれて小さく縮こまった寝姿は、誰の視界にも映らなかった。