とつとつとしてろうとせず

ひまつぶしにどうぞ。

空白

私を縛り付けるものは脆く崩れる灰の縄、私を鞭打つものは虫に喰われた朽木の欠片。私の両目を覆う薄布には穴が空き、私に宛われた耳当てはひどく風通しがよい。私を怒鳴りつける男は死にかけの老人で、私を見張るはずの男は高鼾をかいて眠りこけている。私に泣きつく女はしわくちゃの醜い老婆で、私に媚を売る女の薄笑いさえ甚だしくぎこちない。私が傅くべき王はすでに亡く、玉座は傾き黴が生えている。私が平伏すべき神々はとっくに遠ざかり、荒んだ聖域には沈黙が犇めいている。
私はもはや脅かされない、畏れない、尊崇によって行いを強いられない。私に命じるもの、私を動かすもの、私が身を捧げるべき何者も、もはや号令を謳いはしない。私は空白によって持ち上げられ、虚ろな背もたれに身体を預けている。ただ思い出だけが、自由も疑念も存在すらしなかった時代の残り香だけが、私を前へと押し進めようとする。はずみ車の回っている内に、因襲の泥濘に沈めと囁く。その力の弱さに、その声の小ささに、失われた偉大さと栄光の輝きが落とす影の深さに、私は涙を禁じ得ない。