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とつとつとしてろうとせず

ひまつぶしにどうぞ。

訪うもの

その声は、次第次第に大きくなり、厚みを増しては家の周りにとぐろを巻く。最初は薄靄のようだったのが、段々段々と形を得て、なんとはなしに姿の見えるようになる。細かったそれは太くなり、軽かったそれは重くなり、触れもしなかった遠くの陽炎から、じりじりと心を焦がす青い炎に育っていく。一年前、振り返ったときには何もいなかった。半年前、天井を走る足音を聞くようになった。一月前、扉の前で誰かが待っている。ようやく昨日、くっきりと顕になった銀色の長い腕が、するすると喉を通り俺の中に入ってきて、腸の奥底の底を塒と決め込んだ。つるりと光る鋭利な息吹を飲み込んだ俺は、もはやその呼び声を聞くことはない。冷たい意思は俺の血によって熱を帯び、朧気な力を俺の骨が支え、立ち昇る衝動はすでに俺の神経に編み込まれている。それはもはや俺の一部であり、俺を律する歴とした決意である。分かたれることはなく、動かなくなるその日まで、俺は俺を追い立て、駆り立てるのだ。