とつとつとしてろうとせず

ひまつぶしにどうぞ。

希うもの

ああ、まったくもって本当に、上手い文章というものを書いてみたい。書きたい。面白い文章が書きたい。ユーモアの光る文章が書きたい。含蓄のある文章が書きたい。人の興味を惹く文章が書きたい。書きたい。自分がいままで読んできた、震える程にすごいと感じた、いずれ名だたる名文の数々のように、人の心を動かし、強く感情を惹き起こす力を持った文章を、書くことのできる能がこの身に欲しい。偉人才人の爪垢だけの分でもよいから欲しい。忙しなく通り過ぎるお歴々の一瞥を、ほんの少しの間ばかり繋ぎ止める程度の魅力でよいから欲しい。欲しい。いやいやしかし、欲しい欲しいとよだれを垂らして手に入るものなぞありはしない。縦令手に入ったとてその質量は高が知れている。何もしないまま何かが得られる世の中ならば、そこかしこに果報を寝て待つだけの怠け者が溢れかえるだろう。その実そうはなっていないということは、いかなる名文も苦悶と憂慮を反復した果ての産物であることの証左であって、駄々をこねても時空の空費であるだけだ。
さあ、すばらしい文章を読もう。たくさんたくさん読もう。心を研ぎ澄ませ、潤いを絶やさぬよう、魅せられるままに情緒を湧き起こそう。学ぶには真似ぶしかない。よいと思った文を読み、よいと思える文を書く。これを続けるより他にない。ああいやまったく、上手い文章を書くのは険しいものだ。