とつとつとしてろうとせず

ひまつぶしにどうぞ。

果ての家

光射す丘の上、影そびえる朽ち果てた家の、大きな扉の隙間の奥に、小さな四足の椅子の空いているのを見るとき、息を切らし、足を引きずりながら頂きへと至った子どもは、喉を殺して渇いた叫びを上げる。絶望に膝をつき、理不尽への怒りに震える胸を掻き毟りながら、瞳に溜まった悲しみが流れ落ち、まるで血痕のように床に染み込むのを、彼は頭のどこか醒めた部分で眺めている。廃墟そのものの屋内は静まり返り、食卓の上の食べ残しを食い漁る虫の羽音も、忙しげに壁の中を走り回る鼠の足音もない。蜘蛛さえここには糸を張らず、獣が嵐の夜をやり過ごすために雨止みを待ち、旅人が冬の寒さを耐え忍ぶために暖を取った様子もない。一切の歴史は熱を持たず、運動をしないままに、ただ埃と時を堆積させている。子どもは見たのだ。生きている何物もここにはなく、死にまつわるもろもろが折り重なってあるのを。子どもは知ったのだ。十六回目の聖誕祭のあの日、聖者と賢者が群れをなし、西の崖から我先に飛び降りていったその理由を。斜陽の最中、部屋の隅から冷たいものがひたひたと首をもたげたような気がして、子どもは息を呑み、踵を返して外へと出た。麓の街へと駆け去るそのとき、一度たりとて振り返ることはなかった。背筋を這い上がる古い思念の振動から逃れるために、失われた種々のものが忘れ去られていくことそのものを記憶しないために、子どもは山道をひたすらに駆け下り、暗い山陰の足元へ、濡羽色の帳を引いていった。夜霧に沈む街並みに、ほんのちっぽけな明かりの灯るのを頼りに。