とつとつとしてろうとせず

ひまつぶしにどうぞ。

二重基準の除去

宗教家は科学で知りうることの限界が存在することを念頭に「人間の能力では知りえない超越的な領域について科学は無力だ」ということがある。それについてはまったくもってその通りだと思うのだが、そう主張したはずの人間が舌の根も乾かぬうちに「その領域とは神に属することがらであって、そこには信仰によってしか近づけず~」と饒舌に語り出すのはどうしてなのか。人間に知りえないことがらの詳細な内容を、人間である宗教家がなぜさもそれが真実であるかのように語れるのか。そんな権利は、少なくとも先のような命題を振りかざした人間にはないはずだ。それは最も単純なダブルスタンダードの間違いである。このようなエセ宗教家(もちろん、本物の宗教家はこんなことはいわない)は結局、相手の主張を否定し、自分の主張を肯定させるためだけに、科学的なものの見方を都合のいいように利用しているだけで、それを実践しているわけではない。論争において最も除去されるべきものはこのようなダブルスタンダードである。この作業を注意深く丹念に行うことだけでも、かなり有意義な思考を得ることができると思われる。
科学は宗教と対立するものではありえない。宗教の権威を頭から信じ込んでいるような思考停止は宗教こそが科学を包摂するものだと思っているだろう。逆である。科学こそが宗教を包摂しており、その枠組みの中で宗教を捉えなければならないのである(ゆえに最も科学的な宗教的信条とは無神論ではなく不可知論である)。忘れてはいけないことは、それほどまでに人は科学をすでに信頼してしまっているし、それ以外に信頼すべき「思考の方法」など他には存在しないということである。