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とつとつとしてろうとせず

ひまつぶしにどうぞ。

救急車だってウーウーと泣く

健康な人間は嘔吐しない。青い顔して厠に駆け込む背中には大抵病魔が張り付いている。それは明らかな病の徴候である。よりにもよってこの危険信号をはしたないなどと咎める向きすらあるが、これはあまりに過酷な所見であろう。彼らとて好き好んで変わり果てた昼飯と旧交を温めているわけではない。生理反応なのだ。どうもしようもないのである。喉奥から勝手にデロデロと顔をのぞかせてくるものを、何とか人前でお披露目しまいと、慌てて個室に走るだけエチケットを弁えているとさえいえる。一度でも病床に臥せったことのある御仁なら見て見ぬふりをするのがマナーだと思われるのだが。
しかし、嘔吐とはまた心身の防衛機構でもある。白磁の陶器に胃液が描く美しい放物線は体が宿した戦の意志だ。手空きの望めぬ医者先生たちにはどうか顔をしかめず、家中の便所で吐瀉物を垂らす病人を見守っておいていただきたい。苦痛を訴える者だけで病院は破裂寸前だが、苦痛を訴える者の総体が医療的処置を必要とする者の全体と合致するわけではない。彼らは嘔吐によって来院者を減らし、引いては国庫の浪費を食い止めているのである。おお、何と健気な自己犠牲であろう。自分語りの鬱陶しさも少しは和らぐというものではないか、なぁ?