とつとつとしてろうとせず

ひまつぶしにどうぞ。

千の口に列ねる

願わくば、沈黙の死の下に沈むのではなく、饒舌な死の上に安らぎたい。自分の意思が身近な人に誤解されたまま、自分の意志の内実が十分に知られぬ内に、自分の遺志の詳細な注釈も残さず、口をつぐんで無惨に頓死を迎えたくなどないのだ。生きている時分にさえ、他人に理解されないことは大いなる苦痛であろう。死んだ後にすら無粋な邪推を食らわされるのは真っ平である。何も俺は後世の人間にすごいやつだったと褒めてもらいたいわけではない。もちろん、後ろ指さされて笑い者にされたいわけでもない。良し悪しのどちらであっても、客観的で妥当な評伝をつけてほしいだけなのだ。良しというなら俺が真実持っていた生前の美徳を根拠にそういってほしい。悪しというなら俺がついぞ矯正できなかった悪癖に基づいてそういってほしい。大切なのは、過剰な虚飾は、その内容の毀誉褒貶に関わらず、可能な限り排除されなければならないことだ。センセーショナルなお涙頂戴話を副葬品に添える必要などないし、むしろそうしないでほしいと遺言しよう。俺は俺の死骸を俺にまつわる事実にくるんで焼いてほしいのだ。