とつとつとしてろうとせず

ひまつぶしにどうぞ。

涸れた心根

濡れそぼったような情緒、あるいは永遠不変なる人類の普遍的価値観とやらを、全く意に介さない乾いた精神が存在すると俺は信じる。育ちのよいお嬢様、すなわち件の思想にどっぷりと浸されて育まれた魂が、涙ながらに声を嗄らし、鼻水垂らしてその翻意を説得し、なだめすかし、挙句恫喝を試みたとしても、一寸足りとも揺るがし得ない精神が確固として存在すると俺は信じる。誰もが共感し、誰もが理解し、誰もが何らの躊躇もなく実践するであろう情念と思考を、それは路傍の木石以上に注意を払わない。それは子供の笑顔を喜ばず、性愛と情欲に奮起せず、勝利と栄光を無視し、およそ常人が考えもしない異常な衝動にさえ無関心である。人はそれを涸れているとか、ひび割れているとか、不自然である、不気味であると指弾する。だが、それは涸れているわけでも、ひび割れているわけでもない。その価値を貶めんとする諸々の隠喩は意味をなさない。市民たちの怒号や非難が何になろう、ご婦人方の悲鳴や喚きがどうしたというのか。偉大なる凡夫どもの暴力はその精神を抹殺することはできても、その存在と歴史を抹消できるわけではない。恐怖に痙攣する弱々しい心にはその本質を傷つけることすらできはしない。それは厳然として存在しうる、それは断固として伝播しうる。
もちろん、俺はそのような精神を持ち得ない。俺は人並みに感動し、人並みに涙し、人並みに喜怒哀楽を消費する。それは全く幸福なことであると分かっているが、しかし、そのような精神からすれば、俺の幸福とて取るに足らないちっぽけなものだろう。

恐怖! 謎の微分方程式!?

先日、こんな出来事があったそうだ。
breaking-news.jp
ニュースの内容も気にならないではないが、個人的には件の教授が書いていたという方程式の内容の方が気になった(一時間近くこれについて調べてしまった程度には)。とくダネ!で紹介されたところによると、「メニューコストと価格の分散の微分方程式」とのこと(ちなみに、放送された画像は別の方程式のものだそうだが、あれも同様の微分方程式だろうな)。
いやー、何がわからんって、「メニューコスト」なる「新ケインジアン派」の「マクロ経済学」の概念はもちろんのこと、それを表す「確率微分方程式」の計算方法なんてもっとわからん。画像の方程式だって、仮に確率微分方程式じゃなかったとしても手では解けなさそうだったし(解像度が低いのと門外漢過ぎて線形か非線形かすら判別できん。線形でも解けない気もする)。あれを見て教授をテロリストだと通報したおばちゃんの恐慌もむべなるかな。
菊川怜さんは画像の方程式を見て「朝飯前」だと冗談混じりにコメントしていたが、建築学科は確率微分方程式も教わるのだろうか? それはともかく、暇のあるときにでもまた調べてみようかな、確率微分方程式(その前に確率論から勉強しなおさなきゃだけど)。

髪の長いの短いの

髪の長いと毛先が曲がる、はねる、逆立つ、くるくる回る。目ん玉擦るしすだれも邪魔で、洗うも拭くも一苦労。手櫛じゃどうにもまとまりつかず、壁や隙間に挟まり抜けて、悲しい痛みが乗っかかる。
短い髪なら手入れもいらず、洗う手間なぞないも同然、濡れても放っときゃすぐ乾く。毛先が汚れを拾うことも、絡まりほつれることもない。冬場の風が頭にくるのと、寝起きにぺたりと寝癖がつくのは、どうにもならないことではあるが。
かといえ坊主はさすがに駄目だ、坊主は家出をするときだけだ。親愛慕情のご縁の数々、捨て去る剛気は俺にはない。
だからこそ、不意にもらった優しさでぺたりと倒れた無様な寝癖を、束の間辛抱しなけりゃならん。いくら短い髪とはいえど、禿げ枯れるにはまだ早い。

訪うもの

その声は、次第次第に大きくなり、厚みを増しては家の周りにとぐろを巻く。最初は薄靄のようだったのが、段々段々と形を得て、なんとはなしに姿の見えるようになる。細かったそれは太くなり、軽かったそれは重くなり、触れもしなかった遠くの陽炎から、じりじりと心を焦がす青い炎に育っていく。一年前、振り返ったときには何もいなかった。半年前、天井を走る足音を聞くようになった。一月前、扉の前で誰かが待っている。ようやく昨日、くっきりと顕になった銀色の長い腕が、するすると喉を通り俺の中に入ってきて、腸の奥底の底を塒と決め込んだ。つるりと光る鋭利な息吹を飲み込んだ俺は、もはやその呼び声を聞くことはない。冷たい意思は俺の血によって熱を帯び、朧気な力を俺の骨が支え、立ち昇る衝動はすでに俺の神経に編み込まれている。それはもはや俺の一部であり、俺を律する歴とした決意である。分かたれることはなく、動かなくなるその日まで、俺は俺を追い立て、駆り立てるのだ。

次数の異なる2つの変形Bessel関数の比の近似

はじめに

変形Bessel関数はBessel関数と同様、円柱座標系や平面極座標系における偏微分方程式を変数分離法によって解いたときの半径方向の分布を表す関数として知られている。たとえば、平面極座標系$(r,\theta)$における変形Helmholtz方程式
\[ \paren{\nabla^2 - \alpha^2}\psi = 0 \]の一般解は、次式のような関数の重ね合わせによって表される($\alpha$は定数)。
\[ \psi_{n}(r,\theta) = \paren{ A_{n} I_{n}(\alpha r) + B_{n} K_{n}(\alpha r) } e^{i n \theta} \]ここで、$I_{n}(r)$と$K_{n}(r)$はそれぞれ$n$次の第一種および第二種の変形Bessel関数であり、$A_n$と$B_n$は境界条件から定まる未定係数である。$n$は分離定数であり、周期境界条件を考慮する場合は整数である。もし解析領域が単位円盤であり、$r = 1$でNeumann境界条件が与えられたとすると、未定係数は次のように次数の隣り合う2つの変形Bessel関数の比を含んだ形になる(変形Bessel関数の微分は異なる次数の変形Bessel関数との漸化式によって与えられるため)。

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