とつとつとしてろうとせず

ひまつぶしにどうぞ。

もしもトールキンがマザコンでナルシストの人殺しだったら

今年の5月に人工言語アルカの作者が元妻の首を路上で切りつけ、殺人未遂で逮捕されていた――というニュースをついさっき知った。ものっそいいまさらながら、正直驚いているし、多少なりともショックを受けている。というのも、俺は前々からアルカのことを知っていて、大げさにいってその作者のことを尊敬していたからだ。彼の作り上げた世界観と言語のクオリティはアマチュアとしてもかなり高いもので、人工言語あるいは架空言語が好きな人種としては敬意を払うに値する存在だと思っていた。
もちろん、報道が事実なら彼に同情の余地はなく、俺も彼を擁護するつもりはない(ナルシストでマザコンだとの表現はいささか以上に印象操作的なものを感じるので、その点については「同病相哀れむ」といったところか)。彼のやったことは立派な犯罪で、その動機もまったく自分勝手なものであり、振る舞いはまるっきりただのストーカーである。
悲しいことに、この事件によってこの種の趣味に勤しんでいる人々(非常に大雑把な意味での中二病の人々)に対する世間の目が(程度の差こそあれ)冷たく厳しいものになったといえるだろう。彼の作品自体はまともな創作活動の産物だけに、残念でならない。
小説の執筆が(立派かはおいといて)真っ当な趣味であることは疑いようがない。それと同じく、人工言語の創作もまた真っ当な趣味だ。この分野の第一人者というか「神さま」的ポジションにいるのはJ.R.R.トールキンである。「うはwww自分で言語作るとかwww中二病乙www」とかいう人は『指輪物語』のファンとは仲良くなれないので注意されたい。ともかく、俺がいいたいのはトールキンレベルの言語創作者になれたなら、そいつは彼と同等の尊敬を受けてしかるべき存在であり、一概にバカにしたものではないよ、ということである。
突拍子もない想像だが、もしもトールキンがマザコンでナルシストの人殺しだったら、『指輪物語』や『シルマリルの物語』は世間からどのような評価を受けただろうか。エルフやドワーフといったファンタジー世界のお約束は何か別のものに変わっていたのか。映画『ロード・オブ・ザ・リング』は制作されなかったか。ガンダルフは大統領に推薦されなかったか。あそこまで影響力のある作品の場合、作者が何かをやらかした時の反動は普通より大きいのかもしれない。
ともあれ、アルカの創作は彼が罪を償い終えるまで凍結されるだろう。その間に忘れ去られてしまうかもしれないと思うと、元々ドマイナーなジャンルから優れた作品が消えていくことになる。たとえるなら、これは自分が応援していたバンドがドラッグの使用で解散させられるようなものである。それはやっぱり、悲しくて残念なことだと俺は思う。俺は作者には同情しないが、アルカという作品と、アルカを取り巻く同じ趣味の人々に同情する。

架空言語の概要についてはここが詳しくわかりやすい。実際に架空言語を創作し、それを使った小説を出版している作家の人が書いたものなので、説得力が感じられると思う(というか俺の考えはここの受け売りなわけで)。